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テレビ番組の「ボカシ」がボカすのは番組そのもの

画像:CBCテレビ『旅ずきんちゃん』

【コラム:ナゴヤ東新町 一五一会】

引っ越しの度に姿を現す、中学校の卒業文集。

私の同級生で「どちらかと言えば不良」か「不良」にカテゴライズされる生徒たちが書いていた内容で最も多かったのが『オグリキャップの素晴らしさについて』だった。中にはご丁寧にイラストまで描き、書く文字数の削減に成功している者もいた。

慎重を期して記すと、オグリキャップとは80年代後半から90年代にかけて活躍した芦毛の競走馬だ。

私の地元・名古屋からほど近い、岐阜の笠松競馬という地方競馬出身ながら中央進出を果たして重賞レースで勝ちまくり、そのサクセスストーリーも相まって、大変な人気を誇った。

ちょうど私が中学を卒業した年にオグリキャップは引退。笠松競馬場で行われたセレモニーには場内に入りきらないほどファンが殺到し、強面の競馬ファンたちが野太い声でオグリコールをしながら慟哭するという異様な光景を、ローカルニュースで目にしたのを鮮明に覚えている。

不良カテゴリの同級生たちは、どうにかしてそのセレモニーを生で見たようで、次の登校日は「オーグーリ!」「オーグーリ!」とやかましかった。

だが、その時の興奮を教室で話す彼らの目はキラキラしていたし、彼らが卒業文集に書いた内容もまた、大変生き生きとした描写で、1と2が中心で体育だけが5という型通りの通知表を見せびらかしていた生徒たちとは思えないような躍動感があった。

競馬って楽しいもんなんだな、当時素直にそう感じた。

それから20数年。オグリキャップも駆け抜けた東京競馬場はショッピングモールのようになっていた。

名古屋のCBCテレビで12日深夜に放送されていた『旅ずきんちゃん』で「競馬場ハカセが教えるディープな旅」の舞台として紹介されていたのである。

現地を訪れて驚いた大久保佳代子さんが「お台場のヴィーナスフォートみたい」と表現していたのも納得のオシャレ感漂うモールに、女性限定エリアのカフェで出てきたインスタ映えしそうな可愛らしいスイーツも。競馬場のイメージをすっかり変えるものだ。

「女性も気軽に楽しめる進化した競馬場」を見せられると来れば、新たな動きに目がないテレビとしては願ってもないロケ現場だ。

高級ホテル名を冠するレストランがあったり、ジョッキーの疑似体験ができたりと、東京競馬場は差し詰め「競馬のテーマパーク」に。大久保さんのほか、ロケに参加しているペナルティ・ヒデさん、阿佐ヶ谷姉妹の“姉”渡辺江里子さん、メイプル超合金の安藤なつさんが、仕事ながら園内を満喫しているのが伝わってくる。

しかし、何といっても競馬場のメインはやはり競馬観戦である。

昨今、レース中継や結果はスマホなどで手軽に確認ができるはずだが、わざわざ競馬場まで足を運んで生で見たい皆様の、競馬に対するアツさや本気度はかなりのものだろう。

芸人さんの力を持ってすれば、絡む対象者によっては面白い展開が来るかもしれない。例えそれがなくとも、競馬ファンの様だけでも場内の迫力や臨場感が十分に伝わるに違いない。

そう思って見ていたら、スタンドの様子は華麗にボカシが入っていた。

スタンド後方から馬場を撮影した映像など、馬以外、画面の下半分が全部ボカシ。しかもスタンドにいるのが実は競馬ファンの皆様でなく、ソフトバンクのロボット・Pepperくんだったとしても分からないレベルの濃さである。

その他の場面もよく見ると、遠くに映り込んでいる方まで、お顔が確認できそうな皆様には入念にボカシが。

プライバシーへの配慮だとは理解できるものの、ご本人のOKがあれば撮影に協力してもらうことは通常可能なはず。それすらないので何か理由があるんだろうなくらいに、何の気なしで見ていた。

すると、画面の奥にスーッと、ボカシなしの来場客が通っていくではないか。

その2人は若い女性ファン。カメラ位置からは結構な距離の所を歩いていたのだが、ペナルティ・ヒデさんが見つけて「今日はレース?買うのー!?」と大声を張り上げると、カメラにしっかりズームアップされた2人は「はい!」と笑顔を見せた。

ちなみにこの場面は「女性も気軽に楽しめる進化した競馬場」であることを番組で示す上で、極めて重要なパートとなっていた。

テレビ番組のボカシは、そのまま放送するには不都合な映像を放送できるものに変えられる、いわば制作サイドが唱える禁断の魔法である。

しかし、その魔法は安易に唱えると、不都合な部分だけでなく、映像が持っていたパワーやメッセージまで根こそぎ消し去ってしまう。場合によっては演出の信頼性にまで影響を及ぼすだろう。

今回、唯一顔が映った女性ファンのほかに、ボカシの向こう側には今のリアルな競馬場の魅力を伝えられる、いったい何人の競馬ファンたちの「いい顔」が溢れていたであろうか。

オグリキャップに目を輝かせていたあの同級生の横顔が、脳裏に浮かんだ。

文/平岡敏治(ウェブ・ソーシャルメディアプランナー/ライター)

【画像】

※ CBCテレビ『旅ずきんちゃん』